派遣問題についての誤解を解く2009年01月06日 13時45分

昨今いわゆる派遣切りの問題について喧しく報道されているが、非常に危うい取り上げられ方がされており、常々危機感を覚えていたので、それについて触れてみたいと思う。

報道においては自動車メーカーを初めとした派遣先がさも派遣労働者を解雇しているように報じられているが、まずこれが誤っている。

派遣先であるメーカーと派遣労働者の間には、雇用関係は全くない。
派遣先は、派遣元である派遣業者から匿名の労働力の供給を受けているだけであり、派遣労働者の雇用の問題はあくまで彼らと派遣業者の問題である。

誤解を恐れずに言えば、「派遣社員は物ではない」と言われるが、少なくとも契約上は彼らは人格のない一労働力でしかなく、段ボールや鋼材といった資材と同じなのである。
従って、必要なときに必要な分だけ業者から供給を受けるのが当然であり、必要がなくなったから注文を断ったところで、派遣先が批判されるいわれは全くないのである。

派遣先の自動車メーカーに出掛けていって派遣切りを止めろと迫るのは、部品を納めている業者が売れないと困るから必要以上にタイヤやブレーキを買えと難癖をつけるのと同じことである。
言われた方だって、何のやましいこともしていないのにいわれのない非難をされては戸惑うばかりであろう。

実際に職を失うことになる労働者たちが声を上げるのは感情的に理解できるが、マスコミがその尻馬に乗って企業を悪者に仕立て上げている現状は全く容認できないし、してはならない。

そもそも、こうなることは遅くとも2004年の段階、つまり製造業に人材派遣が許可されるようになった時点で容易に想像がついたことである。
景気回復局面の中で、日本の企業は無駄をなくし、筋肉質になったとしてその姿勢をマスコミは称揚した。
その「無駄をなくす」ための最大の方策の一つが、派遣労働者を中心とした雇用の非正規化である。
好況下で制度がうまく回っている間は都合の良い側面しか見ず、不景気になって問題が顕在化して初めて手のひらを返して非難を始めるというのでは、マスコミはその機能を全く果たしていない。
これは連合などにも同じことが言える。

雇用の流動化自体は何ら悪いことではない。
固定費のムダを省く良い手段である。
しかし、現状のように何らのセーフティーネットもしかないまま流動性だけが増してしまうと、不況下において急遽路頭に迷う者が増えるという事態に陥ってしまう。
悪いのは非正規雇用者が増えたことではなく、円滑に労働力のシフトが行えないことである。

とはいえ、不況下では仕事の絶対量がダウンするわけだから、そうそう右から左へ労働力を移動できるわけもない。
そうなると、とりうる対策は2つ。
いわゆる失業保険制度を拡充するか、ワークシェアをするか。
雇用保険率を上げて失業保険(実際には現行制度では基本手当と呼称されているが)の需給要件を緩和し、仕事を失ってもしばらくは生活に困窮しないようにするか、正社員の仕事(=賃金)を減らして非正規雇用者に回すようにするか。

いずれにしてもみなが負担を分担しなければ解決できない問題である。
「雇用も賃上げも」などというスローガンは、正気の沙汰とも思われない。

現状ではみなが問題の本質を見誤っているし、そもそもマスコミは自らの不見識を棚に上げて物を言っている。
このままでは世論がミスリードされ、歪んだ結末を迎えてしまう。