ゆにっと公演『Plus Eternal Flame』2008年10月26日 18時49分

複数の出来事を組み立てて破綻のない一連の話に仕立てることは、ある程度の訓練を積めばそう難しいことではない。
しかし、そうしてできた話は、あくまで複数の出来事の組み合わせであって、「物語」ではない。
「物語」とは、複数の出来事が有機的に絡み合いつつ、その芯を一本の「主題」(もっと簡単に言えば「作者の伝えたいこと」)が貫いている物である。
かつこの「主題」も、単独でただあるのでは意味がなく、登場人物や出来事と有機的に融合して表現されていなければならない。

もちろんこんなのは当たり前のことだが、実際に実現させるとなると、なかなかに難しい。

この物語の主題は、「清く真っ直ぐな心が邪心に勝つ」ということである。
(正義、と言うのは僕の大嫌いな言葉の一つなので、あえて使わない)
登場人物に当てはめれば、「清く真っ直ぐな心」が橘と桜であり、「邪心」が巨積であることはいうまでもない。
そして、話の上では、最終的に巨積の陰謀は暴かれ、邪心は潰える。

しかしながら、結果的に巨積の陰謀は打ち砕かれるわけだが、その過程において橘が能動的に動かないため、彼女が(=清く真っ直ぐな心が)勝ったという印象が非常に薄いままに終わってしまっている。
巨積の陰謀については様々に伏線が張られ、その回収も御前会議の場で丁寧になされ、非常に印象的である。
一方で、橘は少し大袈裟に言えば巨積の陰謀を打ち砕く一連の流れの中では何もしていないので、肝心の主人公にもかかわらず巨積の「活躍」に比べて印象が薄く、せっかくの主題もボンヤリしたままで終わってしまう。
葵と青柳についての仕掛けも、それ自体は面白かったが、相対的に橘の印象を薄くする結果になっている。

もちろん、橘が清く真っ直ぐな心の象徴であることは随所で強調されている。
しかしそれが話と有機的に絡み合っておらず、浮いた印象を与える。
協奏曲で喩えると、独奏楽器がオーケストラと協奏をせずに単独で演奏をしているような感じといえば近いだろう。

基本的に話は明快で作品世界に入りやすいだけに、主題が明確に貫徹されていない点は残念だと思う。

これは僕個人のリテラシーの問題かもしれないが、実は僕は最後まで橘は男性であると思って観ていた。
僕の演劇体験の大半は宝塚歌劇とスタジオライフが占めているので、女性が演じているから女性の役だという単純な判断は僕にはできないのである。
亡き祖父に変わって当主になり、また君主の座にも就きうる立場にあるという設定は橘=男性と判断する根拠に十分なり得るし、巨積が桜と橘が一緒にいることを嫌う素振りや、深山の橘に対する態度も同性に対するものと同じである。
橘を女性だと判断する根拠は、極端なことをいえば、女性が演じているということと、最後の場面での葵の科白しかない。
この男性なのか女性なのか判然しない設定は橘という人物にとってプラスにはなっていないと思う。
(仮にそれが意図的なものなのだとしても)
女性なのであれば、もっとそれを前面に押し出した方が個性が際立ったはずだ。

俳優諸氏の熱演は素晴らしかった。
音楽にせよ、肉体を直接使った表現には、何よりも情熱が必要である。
熱のこもった迫力の演技は、それだけで観る者にある種の活力を与えてくれる。
(ただし、巨積の悪事が露見した際の橘だけは、上滑りが過ぎてかえって迫力が伝わらなかった憾みがある)

あと一つ気になったのは、瑣事かもしれないが、何度か出てくる「とんでもございません」という科白。
これは正しくは「とんでもないことでございます」である。
それでは言い回しとして自然ではないということであれば、「かたじけのうございます」とするか。
いずれにせよ、あえてそうする場合以外は、芝居では正確な日本語を使うべきだと思う。

上質な非日常的な空間・時間は少なくとも僕にとっては必要不可欠なものであるが、そうしょっちゅう体験できるものではない。
昨日はそんなひとときを土曜日の昼下がりに過ごすことができた。
いつものことながら、その手引きをしてくれる茂木氏に感謝すると共に、実際にそうした空間を創りだしうる彼を初めとする俳優諸氏に敬意を表したい。

コメント

_ manicure ― 2017年05月04日 21時14分

Nice answer back in return of this difficulty with firm arguments and explaining all about that.

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://reallifecreation.asablo.jp/blog/2008/10/26/3848696/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。