【宝塚】翼ある人びと-ブラームスとクララ・シューマン2014年03月02日 15時37分

※ドラマシティでの観劇記になります

ひょんなことから最前列のほぼ中央で観劇できたこともあり、儚くも純粋で美しい世界に心の底から酔わされました。

とにかくブラームスのまぁくんとクララのゆうりちゃんが美しすぎたという点に尽きます。
まぁくんのきらきらした瞳には、もうそれだけで感動してしまいました。
そしてゆうりちゃんの圧倒的な気品と愁いを帯びた美貌。
研5とは思えない落ち着いた佇まいで、ブラームスとロベルトそれぞれに愛を注ぐ姿が実に高潔で素晴らしかったです。

ロベルトのづっくんは宝塚随一の性格俳優の本領を発揮していて、病に蝕まれていく様は見ていて本当に悲痛でした。
世間的にはあいちゃんのリストが好評のようですが、個人的にはあっきーのヨーゼフの方に惹かれました。
皮肉っぽくいかにも第三者的ながら、その実暖かくブラームスとシューマン夫妻を見守っている様子を好演していたと思います。

筋立ても非常によくできていたと思います。
時折現れる心象風景も効果的でした。
ラストシーンとタイトルとの関連づけも見事の一言で、ブラームスが翼を得て空へ羽ばたいていく姿を思わせるシーンではボロボロに泣いてしまいました。

音楽の使い方も効果的だったと思います。
ブラームス3番第3楽章の主題は愁いを帯びつつも甘美で、作品の雰囲気によく合っていました。
フィナーレで4番の第4楽章(パッサカリア)が使われていたのも、クラシックファンとしては大きく頷けるところです。

ドラマシティは本当に舞台が近いので、舞台最前方に出てくると本当に手が届きそうな距離になり、そのたびにドキドキしていました。
すぐ目の前で、ブラームスが床に楽譜を広げながら子供たちの相手をするシーンがあり、マイクに入らない小声でのお芝居まではっきり聞こえて、死ぬかと思いました。
心臓が持たないので、至近距離で見るのはたまにでいいです。

至って地味な演目であり、ミュージカルというよりは歌入りのお芝居ですが、こういう演目ができることこそ宝塚がこけおどしの劇団ではない証左であり、是非とも続けてもらいたいと思います。

【クラシック】インバル&都響 新マーラー・ツィクルス ツィクルスⅧ@みなとみらいホール2014年03月11日 00時09分

マーラー:交響曲第8番「千人の交響曲」
ソプラノⅠ/澤畑恵美   ソプラノⅡ/大隅智佳子
ソプラノⅢ/森麻季    メゾソプラノⅠ/竹本節子
メゾソプラノⅡ/中島郁子 テノール/福井敬
バリトン/河野克典    バス/久保和範
合唱/晋友会合唱団(指揮/清水敬一)
児童合唱/東京少年少女合唱隊(指揮/長谷川久恵)
指揮/エリアフ・インバル 管弦楽/東京都交響楽団

音楽という形而下的なものを超えた圧倒的な体験であり、今までに聴いた最も感動的な音楽である朝比奈隆と都響によるブルックナー8番を凌駕する、至福の時間でした。
神秘的だったと言ってもいいと思います。

規模はバカでかいですが、インバルの指揮は非常に細部に気を遣っており、最強奏時でも音がダマにならず各パートがきっちり分離して聞こえており、時折顔を出す室内楽的な部分では非常に緻密な響きを導き出していました。
また、金管の最強奏も、音の大きさよりも艶や張りを重視しており、力づくではないけれども強く伸びる音を常に出していました。

テンポの動きは非常に大きかったのですが、その変化が非常に自然であり、その音楽にあるべきテンポ設定であるため、「大きくテンポが揺れている」ということを殊更に感じることはありませんでした。
さながら、F1ドライバーがサーキットでマシンを操るがごとく、といったところでしょうか。

第Ⅰ部のラストは強烈なアッチェレラントから大きくリタルダンドをかけ、大合唱とバンダを含む金管の輝かしい響きをたっぷりとホール全体に満たし、完全に心は現実を離れ陶然とさせられ、涙があふれて止まりませんでした。
(「涼宮ハルヒの憂鬱」TVアニメの最終話で神人が世界を破壊するシーンで使われた音楽です)

ここで完全にイッてしまったので、第Ⅱ部はしばらく賢者タイム。
インバルの理知的かつ雄弁な音楽に酔わされているうちに回復し、そしていよいよ全曲のクライマックス。
神々しい合唱に続き、3階席後方の上手・下手に配されたバンダも含めた大編成の金管群の輝かしい響きが前からも後ろからも聞き手を包みます。
圧倒的な響きの洪水の中で空間的感覚を失い、ただただ呆然と奔流に身をゆだねるのみ。
気がつけばまたしても滂沱の涙を流していました。

都響の演奏を聴くたびにその上手さを褒めていますが、本当に上手い。
ホルンと金管セクションの盤石ぶりには舌を巻くばかり。
ホルン首席の上手さは格別です。
また、ラストのクライマックスでインバルはものすごくテンポを落として和音を引っ張るのですが、よく金管セクションが頑張ったと思います。

フロントローに四方恭子(コンマス)、矢部達也を配し、他の弦のパートも特任首席や首席を揃えており、都響の気合いのほども伺える万全の体勢でした。

晋友会はさすがというべきか、膨大な合唱パートを暗譜で歌いきりました。
児童合唱は真っ白な修道士のマントみたいなものを着ており、ちょっと天使っぽい感じでした。
各独唱も含め、完全にインバルの楽器となっており、素晴らしかったです。

あまりにも規模が大きいため、録音にはその全ては収まりません(5.1chであればいい線はいくかもしれませんが)。
こんな素晴らしい経験を日本にいながらにしてできるとは、本当に幸運です。
貴重な耳の宝をまた一つ増やすことができました。

【真綾】「ダディ・ロングレッグズ」の舞台を見てつらつら考えたこと2014年03月21日 00時18分

今日、3/20の2回目は公演3日前に突如アナウンスのあった、電撃的な追加公演。
平日の夜、しかも3連休前に都合をつけて駆けつけるなんてのは、井上さんと真綾のコアなファンばかり。
そして、ファン層からの予想通り、客席はほとんどが井上さんの熱心なファンでした。
(要はちょっと年齢高めの女性ばかり)

終演後の特別カーテンコールで、井上さんが「レジェンド公演」と呼んだ通りある種特別な公演であり、2人ともいつも以上の熱演でした。
アドリブが多く、ちょっとした小芝居や表情が非常に豊かで、何回も見ていますが今回がベストだったように思います。

真綾のウイットに富んだ表情では大きな笑いが起こり、ソロでは大きな拍手が上がるのを聞きながら、ふとこの笑いや拍手は真綾のファンではない人が送っているものなんだよな、ということに気付きました。
客席にいるのはほとんどが井上さんのファン。
しかし、真綾にも井上さんに対するのと同様の反応を返している。
今さらながら、これはなかなかすごいことだぞ、と思ったのです。

本人がそういうことを意識していたかは分かりませんが、そもそも初演時は真綾にとってこの作品は完全にアウェーだったはず。
本職である井上さんと劇場に動員できる数が圧倒的に違います。
(実際、今だって客席の大半は井上さんのファンです)
しかも、井上さんのファンはミュージカル通の目の肥えた人が多い。
エポニーヌを長い期間やっていたとはいえ、実績はそれだけなわけで、真綾をかなり色眼鏡で見ていた井上さんファンも多かったと推察できます。

まして女性は同じ女性に対する眼が非常にシビアです。
いかに井上さんのファンであっても、一人しかいない相手役の女優が気に入らなければ、そんなに何度も劇場に足を運んだりはしないでしょう。

それが、大ヒット公演となり、異例とも言える追加公演組まれるほどになった。
真綾が自分に興味の無かった大多数の人を引き込んだ結果であり、やっぱりすごいな、と改めて思いました。

井上さんに関しても全く同じことが言えるわけで、僕も井上さんが素敵でなかったら、いくら真綾が好きでもこんなに足繁く通ったりしません。
どれくらい素敵かというと、宝塚が大好きで、「舞台で現実の男女のラブシーンなんて汚らわしい!」と思っている僕が、ジャービスとジルーシャのキスシーンをボロボロ泣きながら見ているくらいです。

カテコのトークで、真綾が「この作品は何度演じても全く飽きるということが無くて、毎公演が新しい」と言っていましたが、見ている僕も同じで、何度見ても初めて見たときの新鮮な感動が全く薄れないのです。
普通だと頭の中でちょっとストーリーを先取りしながら、次の瞬間を待ちかまえるようにして見てしまうのですが、「ダディ」は全くそんなことが無く、常に初めて見る新しいストーリーとして観劇しています。
こんな作品は初めてです。

真綾も井上さんも完全にジルーシャもしくはジャービスその人になっており、演じている、ということを全く忘れてしまいます。
コメディ部分では2人とも本当にチャーミングで、そして後半に入ると本当に純粋に心から愛し合っていて、愛しているがゆえの涙を流し、こちらも涙無しでは見ることができません。

ジルーシャとジャービスに出会えて本当によかったと思っています。
東京公演は運良く千秋楽を見ることができます。
大好きなジルーシャとジャービスを心に焼き付けたいと思います。