【クラシック】印象に残る演奏会2013年01月30日 23時48分

これまでそれなりの回数の演奏会に足を運び、素晴らしかった演奏、ksな演奏といろいろ耳にしてきました。
今までに接した印象的な演奏会を、トホホなものも含めて振り返ってみたいと思います。

一番印象的なのは、やはりヴァント最後の来日公演(オケは手兵北ドイツ放送響)でしょう。
指揮者登場直前の、ホール全体が完全に無音になり、空気そのものが完全に静止した瞬間を、僕は忘れることはないでしょう。
老巨匠の立ち居振る舞いも大変見事で、真の芸術家のオーラとはかくなる物かといたく感心したものです。
演奏も大変素晴らしかったのですが、いかんせんホール(タケミツメモリアル)の空間がドイツの一流オケの大ボリュームを受け止めるには小さく、トゥッティではかなり音の鳴り方が窮屈な局面がありました。
それでも、第一楽章の最後のTrのクレッシェンドには魂をぶっこ抜かれました。

朝比奈隆が都響を振ったブルックナーの8番も忘れられません。
特に第3楽章のアダージョがまさに神の恩寵のごとき素晴らしい響きで、涙を止めることが出来ませんでした。
このときの体験が強烈すぎて、朝比奈の手によるものを筆頭にヴァント・ヨッフム・クナッパーツブッシュと名盤と言われているものを聴いても、録音では満足出来ない身体になってしまいました。

朝比奈というと、新日フィルを振った第九も思い出されます。
一貫してきわめてテンポの遅い演奏で、フルトヴェングラーの表情豊かな演奏を無上のものと思っている身には、立派ではあるものの大変退屈な演奏でした。
しかし、最後の最後、コーダのプレスティッシモのところでちょっとだけテンポが上がり、その瞬間に全身に電気が走るのを感じました。
あまりにも一瞬でしたが、このための遅いテンポだったのか、とも思わせられる、衝撃的な瞬間でした。

小林研一郎は、代名詞のチャイ5がやはり素晴らしいのですが、その他にも名演があります。
来日したハンガリー国立響を振った「幻想交響曲」は、第4・5楽章が本当にキチガイじみていて、手に汗握る激演でした。
一方で、都響を振った「我が祖国」全曲は、情熱だけではなく、オケの巧さを十二分に生かしたコクのある演奏で、ボヘミアの大地が眼前に広がるかのようでした。
上原彩子がチャイコフスキーコンクールで優勝した直後の凱旋公演となった、チャイコフスキーの協奏曲のフィナーレも忘れられません。
出だしからお互い一歩も譲らないテンポでのガチンコ勝負。
コーダではまさにサイドバイサイドといった感じで、まるでF1を観ているかのようなスリルに思わず腰を浮かせたのを憶えています。
あれはトスカニーニ=ホロヴィッツ盤を彷彿とさせる、本当にすさまじい熱演でした。

演奏会ではありませんが、ハンガリー国立ブダペスト・オペレッタ劇場の「メリー・ウイドウ」はめくるめく楽しさで、学生時代に大枚はたいて行った甲斐があった、眼の宝になった舞台です。
大衆演芸といった感じの陽気な舞台で、また是非体験したいと思っています。

指揮者によってオケの音ががらっと変わるというのも、クラシックを聴く醍醐味でしょう。
デュトワがN響を振ってラヴェルの「ラ・ヴァルス」や「ボレロ」を演奏したときは、N響の音にびっくりしました。
普段は重たい、野暮ったい音のN響が、実にパリッとして瀟洒な音を出しており、まるで別のオケのようでした。
このときの両曲は実に生気に富んでおり、本当に素晴らしかったです。

尾高忠明が日フィルを振ったウォルトン「ペルシャザールの饗宴」も、音楽のすばらしさと同時に、指揮者のオケの統率に感心させられた演奏でした。
日フィルってこんなに巧いオケだったっけ?と耳を疑うほど各パートがミスなく、大編成にもかかわらず響きも透明で、引き込まれました。

ダメな演奏というのも幾度か経験しています。
N響の定期会員だったときに、聞いたこともない風采の上がらない爺さんの指揮者が登壇したことがあり、このときはひどかったです。
前プロの「マイスタージンガー」は、少し前に聞いたワセオケの方が下手だけど元気が良い分まだマシという代物。
メインのブラームス4番に至っては、まるで切れたパンツのゴムみたいに締まりのない演奏で、危うく寝そうになりました。
N響ならもっとマシな指揮者が呼べるだろうに、何か大人の事情があったのかしら、と勘繰りたくなるほどひどい演奏でした。

来日したアバドとベルリンフィルによる、青少年のための夕べと題された第九の演奏会もひどかったです。
NHKホールの3階ということを差し引いても、明らかにやっつけ仕事な演奏で、非常に萎えました。
こんなつまらない演奏会なら聴かない方がマシだと思いながら、帰路についたものです。

ラトルとバーミンガム市響の「エロイカ」も、ベートーヴェンの干物みたいな演奏で、学生時分にせっかく高いチケットを買ったのに、非常にがっかりしました。
こんな経験があるので、基本的に巨匠+海外有名オケの来日公演には懐疑的なのです。
(ヴァントは別格ですが)

今の注目はインバルと都響の組み合わせ。
マーラーもそうですが、ブラームスやショスタコーヴィチも素晴らしかったので、インバルの都響での任期が切れる前に聴けるだけ聴いておくのが吉でしょう。
ブルックナー9番や第九をやってくれるのは実にうれしい限り。
耳の宝になること間違いないのではないかと思っています。