【真綾】朗読劇「私の頭の中の消しゴム」@シアター・ドラマシティ2012年07月15日 09時43分

浩介:別所哲也
薫:坂本真綾

本当に素敵なお芝居でした。
真綾の演技の力にも改めて感服しました。

前半は、ぶっきらぼうで不器用な建築現場の作業員の浩介と、浩介が働く建設会社の社長令嬢で、育ちが良く都会的な薫が、出会い、惹かれ、愛し合い、結ばれるまで。
ベタといえばベタなんですが、こういうのに弱いんです。
いい加減かなり枯れてきている僕ではありますが、「恋がしたいなあ」としみじみ思ってしまいます。

スケールの大きい別所さんと細やかな真綾の演技の個性がキャラクターによく合っていて、2人の想いの世界にどんどん引き込まれていきました。
ところどころ笑いも入るのですが、シリアスな展開からさりげなく挿入されるので、不意をつかれてこれがまたおかしかったです。
脚本もよく練られているように思いました。

後半は、薫が若年性アルツハイマーを病み、少しずつ自分を失っていく中、必死に浩介が支えるストーリー。
僕は泣きっぱなしでしたし、客席全体がすすり泣きに包まれていました。
どうして涙と一緒に洟も出るのか分かりませんが、鼻をちーんしたくてもできず、終演までずっとずるずるやってました。

浩介の想い、薫の想いそれぞれがとても切なくて、胸が締め付けられる想いでした。
浩介の愛し抜きたくても、愛する人が自分を忘れ、その人でなくなっていく葛藤と、薫の、自分が自分でなくなっていく恐怖がとても辛かったです。

真綾の演技は決して派手ではないけれども、緻密に描き込まれている感じで、切々と薫の姿が伝わってきます。
薫の恐れもそうですし、少しずつ「恍惚の人」となっていく姿も真に迫っており、胸を打たれました。

物語のラスト、自分が誰かも失ってしまった薫の姿が、痛ましくも美しかったです。
もう科白も、表情もなく、ただ椅子にかけているだけなのですが、素晴らしい演技だったと思います。
そして、全てを忘れてしまったけれども、ただ一つ、浩介の存在だけは手放さなかった薫。
こうして文字に起こしているだけでも、思い出し泣きしてしまいます。

昨年の「ジャンヌ・ダルク」といい、演技者としての真綾の図抜けた存在感に圧倒されるばかりです。
9月の「ダディ・ロングレッグズ」への期待が否応なしに高まります。