夏の読書にお薦めの5冊2008年07月18日 23時33分

書店でも各社がフェアを繰り広げていますが、夏といえばやはり読書。
燦々と照る夏の陽射しを尻目に、扇風機にあたりながら読書に耽っていた子供時代を思い出します。
今となってはそんなことをするヒマも体力もありませんが、そんな贅沢を楽しめる方々に、僕なりにお薦めの5冊を選んでみたいと思います。

景山民夫:『虎口からの脱出』(新潮文庫)

関東軍による張作霖爆殺事件の真相を知ってしまった男女3人の逃避行を描いた痛快な冒険小説。
著者の作品というと、直木賞受賞作である『遠い海からきたCoo』のイメージが強く、実際今年の角川文庫のフェアにも選ばれていますが、個人的には吉川英治文学新人賞受賞作でもあるこちらの方が好きです。
とにかく手に汗握ります。
たたみかける文章のテンポが気持ちいいし、当時の銃器などの描写が詳細で、男の子回路をくすぐります。
読み始めたら止まらないこと請け合いの一冊。

筒井康隆:『新日本探偵社報告書控』(集英社文庫)

数多ある筒井作品からこれを引っ張り出す物好きもそうはいないでしょう。
戦後間もない時代、大阪にある小さな探偵事務所の探偵たちが捜査した数々の事件を描いたルポルタージュ風の作品です。
敗戦からはい上がるためにもがく庶民の醜くも懸命な姿がリアルに描かれます。
時には探偵自身がヒロポン中毒で廃人になったりと、筒井作品としては異例の冷徹な物語です。
筒井作品の特徴は、人間を内面から暴いていくことだと思うのですが、この作品は徹底して客観的です。
ちょっと一般的ではないかもしれませんが、筒井作品に触れたことのある方にはぜひともお薦めの一冊。

佐藤亜紀:『バルタザールの遍歴』(文春文庫)

個人的なことですが、著者は僕の大学に客員教員として教えに来ており、4年生の時1年間講義を受けました。
文学談義より、文壇論議が面白かったのを憶えています。
さて、この本には著者により大きな仕掛けがされているのですが、僕はそれに「種明かし」をされるまでついに気づかず、その瞬間電車の中で悲鳴を上げそうになりました。
今日日の売れっ子作家など足元にも及ばない、文章の、小説の超絶技巧がここにあります。
第1回ファンタジーノベル大賞受賞作ですが、ファンタジーなんて範疇に収まる小説ではありません。
読書経験豊富な読み巧者の方にお薦めの一冊。
(『天使』ではさらなる素晴らしい技巧を楽しむことができます)

恩田陸:『ねじの回転』(集英社)

著者の作品には『夜のピクニック』『チョコレートコスモス』『ネクロポリス』など良作が数多あるのですが、夏休みに読む、というシチュエーションを考えてあえてこちらを選択。
二・二六事件を舞台にした時間遡航SFです。
非常に面白いのですが、今ひとつ話題に上らないのはある程度昭和史の知識がないと、速いテンポと高いテンションについていけないからでしょう。
裏を返せば、開戦前夜の日本史の知識がある程度あれば、著者ならではの巧みなストーリーテリングに飲み込まれて、一気に流されてしまいます。
歴史とは何なのか、ということについても考えさせられます。
歴史好きにお薦めの一冊。

読売新聞社編:『検証 戦争責任』

やはり夏はこの国の過去について考える好機です。
サイトの書評でも書いたのですが、一口に戦争責任と言っても、誰に対する責任なのかによってその所在や在り方は全く異なってきます。
それを考慮せずに十把一絡げにして考えても正しい見え方はしません。
本書はテーマごとに事実と経緯と責任の所在をまとめており、本書の意図する啓蒙の役割を十二分に果たしていると思います。
文章も平易であり、高校生でも十分読める内容です。
パネルディスカッションも載っており、リベラルな歴史学者から、前髪が代々木第一体育館の屋根みたいになっている例のおばちゃんまで様々な立ち位置の人間が参加したもので、読み物として充実しています。
過去に縛られるのは愚かなことですが、これまで辿ってきた道を知らなければ正しい未来は歩めません。
「戦争を知らない子供たち」にお薦めの一冊。

ゆっくり本を読むゆとりが欲しいです。
恩田陸の未読の本もあるし、先日届いたフロイト全集の第10回配本分は「症例ハンス/鼠男」なので、これもじっくり読みたい。
時間はないわけじゃないんですが、精神的な余裕が欲しいです。
ストレスフリーな状態じゃないと味読できませんからね。
グダグダしていた学生時代の夏休みを思い返すにつけ、もっと読書に勤しむべきだったと反省しきりです。